「本日午後10時20分、2号機メルトダウンの予想!」「全部隊、第一原発から100キロ以上退避準備!」悪夢へのカウントダウンを止めるべく、彼らは立ち上がった…。高レベルの放射線が降り注ぐ中、暑さで曇ったゴーグルとマスクを投げ捨て、原発への放水を成し遂げた自衛隊員がいた。ある隊員は「死ぬなら自分のような独身者が」と原発行きを志願した…。国交省・東北地方整備局率いる決死部隊は、被災地を目指す救助隊の先陣を切り、瓦礫と遺体で埋まる基幹道路と格闘し続けた。警視庁機動隊、東京消防庁ハイパーレスキュー隊、災害派遣医療チーム、福島県警察本部……。失態を繰り返す官邸、東電をよそに、命を賭けて黙々と未曾有の危機に対峙した、名もなき戦士たちの壮絶なる記録!
---------------------------------------------------------------------------------------------
上記は出版社による本書の内容紹介です。斯くの如く大変勇ましい物言いとなっていますが、紹介された機関、人々の「ヒーロー物語」ではありません。彼らの職務に対する使命感、最大限の努力、いくつもの落胆、払った大きな犠牲を、彼らの目線でありのままに追跡、追想していく、極めて精密な取材に基づくドキュメンタリーです。しかも、本書で紹介されている機関、人々は、出版社の内容紹介にあるように、いわゆる「官僚機構」とそこに属する人々がメイン。民主党政権になってからとりわけやり玉に挙げられる官僚組織ですが、彼らの立案能力、実行力、それを下支えする豊富な人的資源、蓄積された知識と経験には目を見張るものがある――否、彼らがいたからこそ、福島第一原子力発電所の事故を始めとする震災!
初期の危機的状況の緩和(原子力安全・保安院ではなく、自衛隊、消防、警察の決死の人海戦術による)や人命救助、その後の復旧活動を推し進めることができた、と著者は言いたいのでしょう。
これだけのプロ集団をうまく使いこなすことのできる総理と内閣が今の日本政府には存在しない、と控えめな著者の叫び声が行間からこだましています。メディアがカバーしきれなかった公僕の生の姿、犠牲者、被災者と共に彼らが削った命、苛酷なミッションで殉職した自衛官とご家族の魂、文字通り精神が病むまでご遺体を捜索、搬送する中で削られた現場自衛官の精神の欠片をすくい上げ、市井の臣に開示して下さった著者、麻生幾氏には敬服するばかりです。
この度の東日本大震災で多くの人命が奪われました。まだ、その何倍ものご遺族を生み出しました。犠牲者の魂の平安、ご遺族への慰め、とりわけ震災孤児・遺児となった子供たちの全人的ケア、そして被災されたすべての方々に、「存在への勇気」「未来への恋慕」「死んでも生きる命」への熱い希望がありますよう、衷心よりお祈り申し上げます。 |